大判例

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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)998号 判決 1985年7月03日

控訴人

吉田冨彦

右訴訟代理人

井関和彦

藤原猛爾

承継参加人

信用組合大阪興銀

右代表者

李煕健

右訴訟代理人

青本悦男

脱退被控訴人

丸善不動産株式会社

右代表者

伊藤典義

右訴訟代理人

井上隆晴

主文

承継参加人の請求を棄却する。

承継参加人と控訴人との間に生じた訴訟費用は承継参加人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  承継参加人(以下参加人という)

控訴人は原判決別紙物件目録記載の土地を通行することを妨害してはならない。

訴訟費用は控訴人の負担とする。

二  控訴人

主文同旨

第二  当事者双方の主張は、次のとおり附加訂正するほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

一  参加人

1  参加人は脱退被控訴人(以下被控訴人という)より昭和五八年一〇月一四日本件要役地から、本件承役地に接着する部分を分筆した大阪市生野区桃谷五丁目一四番五八、同番五九の土地(以下五八、五九の土地という)を本件通行地役権とともに買い受けた。

よつて、参加人に対し、本件通行地役権に基づき本件土地の通行妨害禁止を求める。

2  参加人は本件土地を通行することはその営業活動上不可欠のものであつて、本件訴訟が決着すれば、同所に出入口を設けるべく現在においてその壁に切り込みを設けているのである。

即ち参加人は現在やむを得ず営業社員は裏出入口(職員通用口)からわざわざ路地を迂回して御幸通(商店街)に出ることになつているが、その通路(路地)は幅約一・四メートルしかなく物の持ち運びに非常に不便であるうえに、特に現金を持ち運ぶうえでは防犯上この上もなく危険が伴つている。本件土地はこれにひきかえ通路幅も広く直ちに一条通に出られるため防犯上も非常に優れているのである。また表出入口(顧客専用口)が定時で閉められた後、急用な顧客の必要性に答えるうえでも非常に便利であつて、路地を迂回して裏出入口に至るような現状ではとうていこれに答えられないものである。更に一条通は北行一方通行であるため、南側より来た顧客に対しては本件土地を通行して銀行内に入ることができることは非常に便利である。

二  控訴人

1  参加人が被控訴人から昭和五八年一〇月一四日その主張にかかる被控訴人所有土地を買い受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2(一)  仮に参加人が被控訴人から本件通行地役権を譲り受けたとしても、五八、五九の土地を要役地とする通行地役権設定契約は、左記控訴審後の事情の変更も考慮すれば、参加人においてその通行の必要性が全く消滅するとともに、他方控訴人において本件土地を使用する必要性は依然として高いので、事情変更の原則により控訴人に右契約の解除が認められるべきである。

(二)  (控訴審後の事情変更)参加人は被控訴人から買い受けた五八、五九の土地及びその南側の一四の二八、同二九、同二〇、同二一の土地上に鉄筋コンクリート造の店舗(以下参加人の店舗という)を建築し、本件土地から東にのびる旧通路を塞いでしまつたばかりか本件土地の東側に出入口のない鉄筋コンクリート壁を築造し、もはや五八、五九の本件土地へ通行する必要性は全くなくなつたものである。

参加人は現在においても本件土地の通行の必要性を主張するが理由がない。即ち、同店舗の内部構造は本件土地に接する付近に金庫室があつて、今更かかる場所に出入口を設けるなどということは危険盗難防止を最優先に考えるはずの金融機関としてありうべからざることである。参加人は本件土地が係争中にその東隣の五八、五九の土地を買い入れたが、その際控訴人に何らの意向打診(買取り又は賃借の継続等)をしなかつたし、その後本件訴訟中の和解にも利害関係人としての関与もせず、訴訟承継参加の申立も控訴人が参加人に訴訟引受の申立をするに及んでやつとなしたものである。参加人の店舗の本件土地付近の外壁タイル貼りに切り込みがあるが、本件土地とは著しくずれた位置にあつて、出入口設置意図の表れではない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1、2についての認定判断は次のとおり改めるほか原判決理由一ないし三の説示部分と同一であるから、これをここに引用する。

1  原判決三枚目裏五、六行目「本件要役地が原告の所有であること」とあるを「本件要役地が被控訴人の所有であつたところ、そのうち本件承役地に接着する一部を分筆した五八、五九の土地が昭和五八年一〇月一四日参加人の所有となつたこと」と改める。

2  同一〇行目「甲第二号証」以下同一二行目「各本人尋問の結果によれば」までを「甲第二号証、第五、六号証、乙第一号証、第三号証、第五号証(原本の存在も争いない)、検乙第一ないし第一六号証、当審証人伊藤典義の証言(その一部)、原審の被控訴人代表者及び原・当審の控訴本人(その一部)の各尋問の結果、並びに当審の検証の結果によれば」と改める。

3  原判決四枚目裏三行目以下に「ことや、所轄の消防署から非常時に消防車が入れないので通路を確保しておくように指導を受けていた」を加える。

4  同八行目「約七〇センチメートル」とあるを「六五センチメートル」と改める。

5  原判決五枚目表「現在に至るまで」とあるを「昭和五八年一〇月被控訴人が参加人に本件要役地を分筆して五八、五九の土地を譲り渡した頃まで」と改める。

6  同六行目「被告本人尋問の結果中」とあるを「当審証人伊藤典義及び原・当審の控訴本人の供述中」と改める。

7  同裏三行目「合意されたものではないこと、」に続けて「被控訴人は右通行権設定の代償として被控訴人所有の一四番一五の土地の南側〇・六五メートル幅の部分を控訴人の納屋の敷地として提供したこと、右通行権の確保は消防署からも本件要役地のアパート住民の非常用通路として確保することを指導されていたこと、」を加える。

二参加人と被控訴人間の本件通行地役権の譲渡契約書の提出はないが、当審証人柳川謹吾の証言によれば、参加人は五八、五九の土地とともに本件通行地役権を譲り受けたと推認することができ、これに反する証拠はない。

三控訴人主張の本件通行地役権設定契約の事情変更による解除について検討する。

事情変更による解除は、契約成立時とその履行時との間に当事者の前提とした事情が変つたとき、契約を履行させることが信義則に反する結果を生じる場合に適用されるものであるところ、本件通行地役権はその発生に向けられた当事者の合意(物権契約)により履行を要することなく設定されたもので、もはやその履行という観念を容れる余地はないから、本件通行地役権設定契約を解除して右地役権を消滅させることはできない。

ところで、地役権はその目的の消滅により消滅すると解されるところ、控訴人の右主張中には本件通行地役権の通行目的が消滅したので本件通行地役権も消滅した旨の主張を包含していると解されるので以下検討する。

1  <証拠>によれば次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

参加人はその有力理事を代表者とする被控訴人から昭和五八年一〇月一四日五八、五九の土地と同時に同所一四番二〇、同番二一、同番二八、同番二九の各土地を買い受け(その関係位置は別紙図面(一)のとおり)、昭和五九年三月右土地上に鉄筋コンクリート造の店舗を建築完成し、同じ頃営業活動(銀行業務)を始めた。参加人の店舗の本件土地に接する部分は出入口のないコンクリート壁がほぼその敷地一杯に建てられ、またその壁の店舗内部付近には金庫室があつて、同壁の内側は同店舗内で、機密、防犯上の観点から内部構造を厳に秘匿しなければならない筋合の場所となつている。同店舗は別紙図面(二)のとおりその南側が御幸通りに面して正面入口となり、職員通用口はその反対側(同店舗の北東部分)にある。参加人の職員は現在右通用口から同図面のとおり幅約一・四メートルの店舗に沿つた南行通路から東行通路を経て参加人の賃借している駐車場に至り、そこから御幸通に出ている。右通用口の北側は大阪市所有の公園予定地が、その東側は被控訴人所有地がそれぞれ更地として残つている。参加人は五八、五九の土地を買い入れた際本件通行地役権をめぐる訴訟があることを知つていたので、本件通行地役権を利用しない右店舗を設計し、建築したものである。

なお御幸通は西行一方通行、一条通は北行一方通行で、いずれも駐車禁止の交通規制がなされている。

2  右認定事実によれば、五八、五九の土地には本件土地に面して出入口のない堅固な建物が建築完成し、もはやそこには金融機関の機密上、防犯上から出入口を設けることはないと解せられるので、五八、五九の土地から本件土地を通行して一条通に出ることは社会通念上あり得なくなつたというべきである。

参加人は防犯上の観点から、またその職員ないし営業終了後の顧客の便利さからして、本件土地を通行する方が現在の職員通用口を通行するよりも勝つているので、本件訴訟決着後本件土地の東側の壁の切り込み部分に出入口を設ける旨主張し、これに沿う当審証人柳川謹吾、同伊藤典義の供述があるが右認定事実に照らし採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

即ち、仮に職員通用口を利用することに参加人主張の防犯上の難点があるとしても、その解決策として金融機関が金庫室の隣に外部へ通ずる出入口を店舗完成後に設けることは、機密の保持、防犯上の観点からたやすく考えられないし、便利さの観点からしても、本件土地の面する一条通は駐車禁止となつているから、車による顧客及び行員は、結局参加人の駐車場を利用するほかなく、そうすると現在の職員通用口からの通路に比べ本件土地の方が通行に便利だとはいえない。

また前記検証の結果によれば、本件土地の東側附近の参加人店舗壁面タイルの目地に沿つて、幅九四センチメートル・高さ二メートルに亘つて出入口の輪郭ようの浅い切り込み部分が設けてあるが、その位置は本件土地と接する部分はわずかに三八センチメートルでその大半が北側にずれている(そのずれの説明はない)ことが認められること及び前認定の諸事情に照らすと、右切り込み部分の存在も参加人が本件土地の東側に出入口を設ける意思及び必要性があることの証左と解することができない。

以上のとおり、本件土地は今後その要役地(参加人所有土地)の通行の便益に供することがなくなつたから、本件通行地役権は通行目的消滅により消滅した。

四そうすると、参加人の本件請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条に則り主文のとおりり判決する。

(裁判長裁判官乾 達彦 裁判官東條 敬 裁判官馬渕 勉)

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